
ある日、こういうモノを作る人を探していると、義指の制作依頼を頂いたことをきっかけに、それまで、アクセサリー一辺倒だった私は、新しく、関節リングを応用した新しい義指とアクセサリーの融合のような装具作りを始めました。義肢を作っているところはインターネットで全部お調べになられたらしく、義肢製作の会社をまわって、身に着けたい義肢が見つからず、ジャンルを変えてアクセサリーを作っているところを検索されて、私のようなモノ作りにたどり着いての依頼となったとの事でした。そしてそのことによって、新しく、指をデザインするというご依頼にと取り組みがスタートしました。

アクセサリーを作る職人にとって、指に着ける指輪ではなく、指につける指をデザインするという発想というのは、それまでまったく無い考えでした。
医療装具のこともまったく不勉強でしたので、それから手指義手について調べ始めました。医療装具のデザインに取り組むデザイナーというのも、大変少ない、ほかの業界のデザインからすると、すっぽりと手付かずになっている印象があります。
これまでに医療に関わるデザインに携わってきた人というのは、デザインするという考え方が、基本的にまず無く、エンジニアの人が、技術開発の延長でデザインをしてきたそうです。人工心臓のデザインを手掛けられて有名なデザイナーの川崎和男博士も指摘していることです。そして義指、エピテーゼの分野でも、従来からあったものだけが作られ続けてきていて、義肢のデザイナー不在という現状があります。
従来からのシリコンで出来た肌色のエピテーゼしかなかった世界からの新しいデザインの要請がインターネットの検索で届いたんだと思います。私でお役に立てるならと思い、かっこいいチタンの指をお作りできればという気持ちになり、やってみようと思いました。
それまで手掛けてきた特殊な構造の関節リングには、装着上の工夫を施しています。ジョイントを自由にしなやかに、なめらかに曲がるよう、改良に改良を重ねてここまで来ました。
完成前に試着を数回行いますが、長く愛用するうちに、指輪だこができるひともいるくらい、肌身離さず身につけこなしています。
そのうえで、さらに着け心地良くできるよう、関節の骨n当たる箇所があればそこだけ削ったりして微調整を加えヴァージョンアップしていきました。このようなノウハウが、医療装具にも活かせるのは、私としても大変やりがいを感じることです。
アクセサリー、ジュエリーを作っていて、阪神大震災や、イラク戦争など、有事の混乱の時世に際し、なんと自分は無力で、世の中と無縁なのだろうという無力感を感じていたことがあります。
だれかのお役に立てるというのはこの上ないやりがいです。装具、義指の研究は、このようないきさつで私のライフワークとなりつつあります。
松本恵子

チタンでこのようなリングと呼べるか何のカテゴリーに入るのかわからない関節リングを作るというのは前例が無い事だと思います。指を失ったひとのための義指としての動く指輪作りをするようになったのは、関節の動かせる装身具としての指輪作りがはじまりでした。もともと絵描きになろうと、美大で油絵を勉強していて、その後イラストの勉強や修復や骨董なども勉強し、現代美術のインスタレーション作家としての活動が長かったもので、ジュエリーへは独学で踏み込んだ道でした。伝統工法を知らずに何でも未知の素材を試すうちにチタンに出会いました。もともとインスタレーションで、色彩を自在に使っていたこともあり、チタンの美しい色にどんどんのめりこみ、チタンを素材にしたアクセサリー作りに本格的に取り組むようになっていきました。

関節に着け、動かせる指輪。普通の輪っかの概念を超えて、パーツを組み立てていく創作方式で、指輪を生み出していたのが1999年のことです。
かちゃかちゃと動いたり揺れたりする指輪の構造は次第に指の関節へと拡がっていきました。
指を動かしおはしを持ったりペンで書いたりできる関節リングになっていきました。
そして2006年。
指の代わりになる指を依頼されたのがきっかけで、指としてパソコンのキーボードを押せる関節リングが誕生しました。義肢、または義指と考えても、呼び名はともかく、指を失ったことを隠すのではなく、ジュエリーを着ける、アクセサリーをまとうような気持ちになれるような関節リングが出来上がりました。

2007 5

アクセサリーとしての関節リング 製作例
1999年から作り続けてきたシルバーの関節リングジュエリー。指輪と呼べないかもしれませんが、アクセサリーデザインを世界最小の建築デザインだというコンセプトで作っていました。
指を曲げてもその曲がり具合によって、パーツ同士も動き、バネが仕込まれているかのようにしなやかな動きが可能な装身具です。
■シルバーで作る利点
シルバーは軟らかく加工しやすい金属です。
使っているうちに、味がでてきますので、それを計算してわざと彫りを着けた部分と彫らない部分でコントラストをつけます。
また、シルバーは白い金属ですので、いぶして、黒い部分とおバランスでデザインします。
■チタンの利点
チタンは硬く、耐久性も高く、またシルバー同様抗菌性も高いので、毎日使うのに適した金属です。
チタンは酸にも強く、温泉にもまったく反応しない強い素材です。人体との相性もとても良く、人工歯根などとして、体内に埋め込まれても安全なので、医療にも使われています。



組み合わせたり、つなげたりしながらデザインした例です。
着ける場所によっては、側面も見せられるようデザインします。
親指や小指は他の指と違い、側面を重要視します。
指輪の重さはパーツが多いぶん単純に計算して通常のシルバーリングの3倍になります。きつくフィットして動作を拘束しない程度のゆるさが理想ですが、動きによっては、指を振った際に、遠心力で飛んでしまいます。なるべく指を圧迫せず、接する面積を小さくしながら、振っても落ちづ、指の一部のように着けられるよう注意を払って造ります。指輪を着けることで指の血行が滞ることがないよう、サイズを注意深く測ります。
リングの軽量化のため、またデザインのアクセントのため部分的にチタンを使うのが有効です。チタンなら、着けているのを忘れるくらいの軽さで製作できます。100円硬貨と1円玉の軽さの違いを思い浮かべてみてください。チタンはアルミのように軽くそれでいて、大変硬く丈夫です。しかも錆びません。
関節を曲げられる可動リングを作る場合、まず
どの指に着けるのかで、設計は変わってきます。
小指ならあまり使わないことと、側面と表面の両方のデザインを見せられます。
中指は機能を重視するようデザインします。
オーダーメイド作例 関節リング

チタンというのは未来の素材です。チタンのジュエリーの歴史はなく、これからこういった作品を自ら作ることで歴史を作っていけると思います。加工が難しいのは、通常の貴金属より何倍も硬いためです。硬くて工具がすぐに切れなくなるので、たった5ミリ切り進むのにすごく時間を要してしまいます。
ジュエリーの伝統が無いだけに、新しい作り方を試みるには、何もないところからの出発なので、何の先入観もなく、新規の発想でもの作りができます。伝統的な工芸的な金工法に基づいた技術ではなく、一からの試みです。
前例が無いチタンのジュエリー作りは加工も破天荒な創作になり、見たことのない形を生み出すのに適した素材かもしれません。
試行錯誤の中から、繊細な関節リングも作りました。
指に接する面積を少なくすことで、動作の制限をなくし、着け心地の良さとデザインを兼ね備えた関節リングができました。

指先から数えて、第一関節と第二関節の間にリングがきます。それと、斜めにカットされた土台となるチタンが指の付け根に装着される関節リングです。
握りこぶしを作ったり、重いものを持ったり、ペンを握った場合にも違和感が無いよう設計した造りになっています。

1999年に制作したシルバー950製の関節リングです。
指に輪っかをはめるという概念から離れ、自由にパーツを組合せて、パーツ同士のジョイントのヴァリエーションとともに新しいデザインが次々に生まれました。
デザインは模様など取替え可能な装飾を施すことではないという考えから、最小の建築物を立てるように、構造と空間をどのように構築するかという考えがデザインソースになっています。
第二関節と指の付け根までをつなぐパーツは大きなU型を開け空間をとっています。これは、グーなどの握りこぶしを作って関節を思い切り曲げてもパーツが動作の邪魔にならず、指の動きに沿う構造となるようにデザインしてあります。指というのは骨と指の筋肉が複雑な動きをしますので、そのしくみに金属でできたリングが柔軟に協調できるよう配慮した設計をします。
シルバー製の関節リングを造りはじめた1999年から、2000年にチタンを使い始め、徐々にチタンの色とシルバーとのコントラストをデザインに取り入れ始めました。
ジュエリー作りも結婚指輪作りも、義指と呼ばれるかもしれない関節リングでも、デザインを考案しながらいかに美しく、いかに着け心地良くスマートに作るかという制作への取り組み方に違いはありません。結婚指輪を作る場合でも、日常顔を洗ったり毎日使って安全なように、長く使っても頑丈なようにデザインする点でも、関節リング、あるいは義指も同様のコンセプトでデザインします。そして、使ってくれる人が喜んでくれるかどうかが最も大切だと思っています。結婚指輪の場合なら、ふたりの願いがこもっているかもしれませんし、ふとひとりになる時間があって、手元を見た時に、結婚指輪が薬指にあるとうれしくなるような大切な存在かもしれませんし、関節リングなら、いつもとちがう場面で、日常から離れる小道具として活躍するかもしれません。そして、関節リング義指なら、指に代わって、活躍できるかもしれませんし、いつもと違う気持ちになれるアイテムかもしれませんし、これら作品を作ることで、喜んで受け入れてもらえるならこんなうれしいことはありません。

指が静止したまっすぐの状態だけでなく、動作を伴った時の着け心地を考えて設計します。

指の付け根部分を羽のようにかたどったパーツを組み合わせることで、指が長く見え、安定します。
チタンのブルーとシルバーを組み合わせるとガラッと印象が変わり明るくなります。
チタンの色はチタンが自信で膜を作る性質ですので着色ではありません。酸化皮膜でできています。酸化皮膜は非常に強い紫外線を当てると光合成するかのように、光触媒に利用されることで知られています。

2007年2月制作。
TBS番組からの依頼でお作りしました。
K1の現役選手に着けてもらった瞬間、「未来的」と感想をもらすのを目の前で聞いて、一番うれしい言葉だと感じました。